下り坂はブレーキをかけて

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「あれ、千佳ちゃん、遠山先輩と知り合いなの?」 「うん、小学生の時ちょっとね……」 私と千佳ちゃんが幼稚園から高校までずっと一緒なのは、さっき話した通りで、私と先輩は高校で初めて出会った。同じ小学校の先輩では無い彼と千佳ちゃんに、どこで接点があったのだろう。 しかし、それを考えるより早く、周りはあらぬ想像で盛り上がり始めた。 「えっ? まさかの元カノ!?」 「うわ、ロリコンじゃん!」 「あんな小さい子にまで手を出すなんてサイテー!」 遠山先輩の普段の行いが悪いのもあり、他の先輩達は彼と千佳ちゃんが昔付き合っていたのだと決めつけて話を広げていた。なんか色々おかしい気もするけれど。 「付き合った事ねーし! ロリコンじゃねーし!」 プライドを保とうと激しく否定する先輩に対して、 「うーん、あたしのタイプじゃないからごめんなさい」 「ぎゃはは! 遠山、振られてやんの!」 「うぐぐ、悔しい……!」 千佳ちゃんが深くお辞儀をして、周りからも茶化された彼は、口から泡を噴かんばかりに苦しい表情を浮かべた。 「で、詩乃ちゃん達、何を話してたの?」 「先輩が❝一緒にお寿司を食べにいかないか?❞って」 「あたしお魚苦手だからパスー!」 「お前には聞いてない」 「あー、お魚苦手だとおすし屋さんは厳しいよね……。という訳で、先輩ごめんなさい。千佳ちゃんがかわいそうなので失礼します、さようならー!」 断るのにいい口実が出来たと、私は千佳ちゃんを小脇に抱えるようにしてダッシュでその場から離れた。 「いや、それなら卵焼きもハンバーグもケーキもあるし……。おーい、みんな待ってくれー!」 最後まで諦めの悪い先輩に呆れつつ、私達は再び海へと向かって走り出した。
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