下り坂はブレーキをかけて

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「悪い事しちゃったかな……?」 先輩達より先にお寿司屋さんの前を通り過ぎてから、後ろを振り向くと、次第に小さくなってゆく彼の姿が見えた。それがどこか寂しそうに感じて、チャラい人ではあるものの、せっかくの厚意を無にしてしまったのではと気掛かりだった。 「気にする事無いよ。あの人、みんなに同じ事言ってるだろうし、今はランチタイムで混んでるから、私達まで行ったらお店に入れなくなっちゃうよ」 「そうね。それに、せっかくいいペースで走ってるのにお店で腰を下ろしたら、流れが止まってしまうわ」 「あっ、それもそうか」 森田さんと浮月さんがフォローしてくれた。どちらも私には考え付かなかった意見だったので、ハッとさせられた。サービスエリアでのアドバイスもそうだが、私も2人みたいにもっと色々な視点から物事を捉えられるようになれればなあ。 「詩乃ちゃんバカ杉ー! あんなの真に受けちゃダメダメ!」 「千佳ちゃん、先輩とはどういう関係なの?」 「昔、小学生の時にスイミングで一緒のクラスだったの。聞いてよ、あいつクロールする時、手と足の動きがバラバラのセンス0でさ。あたしの方が先に上級クラスに上がって、あいつめっちゃ悔しがってたし」 「そうなんだ……」 自分の方が泳ぎの上手かった事を嬉しそうに話す彼女からは、初々しい恋のエピソードを期待するのは難しそうだ。先輩には悪いけれど、ホッとした。 走り続けた甲斐あって、もうすぐ浜辺に戻れそうだ。少し先に見えるスロープを下れば到着なので、それまでは砂浜から柵で隔てられている歩道を走る事になる。
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