下り坂はブレーキをかけて

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柵を越えれば砂浜はすぐそこだが、歩道は浜辺から高さ5mの場所にあるので、おいそれとジャンプは出来ない。しびれを切らした千佳ちゃんと、それにつられたレイネが歩道から飛び降りようとしたのを制止しつつ先を急いだ。 飛び降りを我慢させながら無事スロープの手前まで到着し、1本の大きな松の木の下でひと休みとなった。 「これは見事な枝振りの松の木だ」 レイネが庭師みたいな感想をつぶやきながら木に近づいてゆく。太い幹と伸びやかに広がる枝は、樹齢数十年ではすまなそうな風格を持っていた。彼女は手を伸ばし、手のひらを幹にぴたりと押し付けた。 「うむ、心地良い」 ガサガサした松の皮を触って、心地良いものなのだろうか。ちょうどその時、海風が吹き付けて私達の火照った身体を冷ましてくれたので、こちらはこちらで心地良かった。 「詩乃ちゃん、あれって有名な松なの? “お宮の松”かな?」 「それは熱海でしょ」 千佳ちゃんの不正解はともかく、あの松が意味ありげな存在である事は確かだ。 「天宮さん、この松ってすごい松なの?」 森田さんが私達を代表してレイネに尋ねる。 「ああ、これは一里塚だ」 「これが一里塚!? あっ、ホントだ! ここに書いてある!」 松の木の脇には古ぼけた石碑が建っており、それが一里塚である事を示していた。
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