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その名前を聞いて、つい心が動揺してしまった。
茉莉子ちゃんこと館山茉莉子は、千佳ちゃんと同じく幼稚園の頃からの友達で高校では1年H組に所属している。
幼稚園の頃からの友達なのに、なぜ名前を聞いて動揺するのか疑問に思うかもしれないけれど、それは私もイマイチよくわからない。高校に入ってから急に彼女の態度がそっけなくなり、別のクラスになった事もあって顔を合わす機会も減り、ますます声を掛けにくくなっていった。
今回の浜歩き大会だって「一緒に歩こう」ってメッセージを送ったのに、「先約があるから結構です」と断られてしまった。だから、今彼女と会っても塩対応を受けるのが目に見えていた。
「どこいるんだろ。派手だからすぐ見つかりそうなもんだけどなあ」
「千佳ちゃん、見つからない方が幸せなんじゃ……」
「えっ? その話聞こえませーん。おーい、茉莉子ちゃんやーい!」
私の不安なんてどうでもいいとばかりに茉莉子ちゃん捜しに精を出す千佳ちゃんをこの時ほど恨めしく思った事は無かった。
「あっ、いたいた! 茉莉子ちゃーん!」
「あら、やっと来たの……」
そして、その甲斐あって茉莉子ちゃんを見つけてしまった。彼女の眼差しは千佳ちゃんにこそ穏やかだったが、私を見つけるとすぐに不機嫌な物に変わった。だから会いたくなかったのに……。
「奴だ……」
「ん?」
一方、茉莉子ちゃんを見つめるレイネの表情も、負けず劣らず険しかった。
お互いが警戒心をあらわにした空気感は、この後何かとても良くない事が起きるのを予感させるのだった。
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