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「ウチのクラス出発が遅れた上に神社まで寄ったから時間がカツカツでさ、だからここまで走って来たの」
「うわ、汗臭いから近寄らないで。無計画だからそうなるんでしょ?」
「そんなに臭くないよー……」
こう言うのを「取り付く島もない」状態というのだろうか。Tシャツの袖を引っ張ってにおいチェックしてもそれほど気にならないレベルなのに、彼女は大袈裟な後ずさりで私の接近を拒否した。
「これ、何て言い様だ。君達は友達ではないのか?」
その姿を見かねたレイネが私達の間に入って来た。
「あんたと話してないんだけど。勝手に入って来ないでくれる?」
「いいや、黙って聞いてはおられぬ。言いたい事があるなら腹を割って話せば良いだろう」
2人はタイトルマッチ調印式のボクサーのように睨み合いを始めた。レイネの温度はまだひんやりだけれど、茉莉子ちゃんは爆発寸前で今にもレイネにつかみかかってしまいそうだ。そして、私がいる場所はちょうど2人の間で、調印式なら小競り合いを引き離す人のポジションだ。私にはとてもそんな力は無いのに、我ながらなんて運が悪いのだろう。
とんだ世紀の一戦の行方を、私だけでなくみんなが固唾を飲んで見守っていた。
「あっ、レイネちゃんちょっとちょっと……」
「何だ?」
突然、千佳ちゃんが手招きしてレイネを呼び寄せた。
「ひそひそひそひーそ……、こそこそこそこーそ……」
千佳ちゃんはレイネに身をかがませると、私達に聞こえない音量で何やら耳打ちをした。
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