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「田中、そんぐらいにしとけって……」
「うっせえ! とにかく弁償してもらう! これ、2万ぐらいしたからな!」
「田中っち、それはひどいよ……」
「断る。持ち合わせも無いのでな」
確証が得られずやぶれかぶれになった田中君は、声を荒げてレイネに弁償を求めた。彼の仲間ですら歯止めのきかない暴走ぶりにおろおろしているというのに、彼女は至って冷静に拒否した。持ち合わせが無いのは、美臍神社でお賽銭を大奮発していたせいでもあるのだけれど。
しかし、これからどうやって彼をなだめたらいいだろうか。このままずっと口論が続くのは嫌だ。
「詩乃、どいて……」
後ろにいた茉莉子ちゃんが、私の肩をそっとつかんで横へはけるよう促した。キツイ口調も影を潜めて今日一番穏やかな様子の彼女、でもそれが一番怖かった。
バシィィッ――!!
暖かな初夏の浜辺に乾いた音が響き、私達の周りの空気が凍り付いた。茉莉子ちゃんが田中君の左頬に強烈な平手打ちをお見舞いしたからだ。
「ぐぁー、いってえ!! くっそぉ……!」
彼は張られた頬を押さえて恨めしそうに茉莉子ちゃんを睨んだが、それでひるむような彼女では無かった。
「ふざけんな! あんた自分が何したかわかってんの!? 何であんたに邪魔されなきゃいけないの!?」
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