ラストスパートの景色は

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レイネから、「雷は危険でやかましいだけの存在では無い」と度々聞かされていたものの、お米を育てるのに役立つとは思わなかった。彼女が言うには、日照りが続く時期には恵みの雨ももたらしてくれる、田んぼの救世主的存在なのだそうだ。 「雷の事を❝稲妻(いなづま)❞と呼ぶように、我らと稲作には古来より深い繋がりがあるのだ。そなたらがこうして旨い米を食べる事が出来るのも、我らの助力あってこそ。大いに感謝するが良い」 「はいはい」 そうやってすぐ腕組みして偉そうな態度を取るんだから。私はまだ半信半疑なんだけれどな。 その後もナビに従い、道路をジグザグに進みながら橋を目指す。ナビはとにかく最短距離を案内する為、普通の道路も舗装されていない狭い農道もお構い無しに進んだ。農道を走らされている時は、農家の人に怒られないかヒヤヒヤで、気持ち速めの通過を心掛けた。 そんな速足の効果か、思ったより早く橋に到達した。 田園地帯の真っただ中にある橋は、歩道と車道がしっかり分かれた広めの造りで、塗装の剥がれが見つからない辺り、比較的最近架けられたように思えた。 橋の中程で左を向くと、川の途中に大きく頑丈そうな水門、更に奥の河口には堤防と右岸にそびえる展望台が見えた。 「あそこ、行きたかったなあ。小さい時行った事あるけど、見晴らしがいいんだ」 森田さんは展望台から望む景色を懐かしんで少し残念そうだったが、「橋から撮る水門と展望台の構図も奥行きがあっていいね」と、これはこれで満足して写真に収めていた。
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