ラストスパートの景色は

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「あの堤防の辺りは、よく釣れる場所として人気があるみたいよ」 「わぁ、あたし釣りやってみたーい!」 「千佳ちゃん、❝生物(なまもの)触れないガール❞じゃん……」 千佳ちゃんったら、いつもその場のノリでしゃべるんだから。釣れたはいいが、自分で針が外せなくて誰かに丸投げする彼女の姿が目に浮かんだ。 橋を越えると、さっきまでと同じような田園風景が鏡に映ったもう一つの世界の如く広がっていた。ナビも相変わらず農道を突き進む大胆なコース取りを選択するので、嫌でも速足になってしまう。いっそ地元の人が近くにいれば、ここを通っていいか聞けるのに。 そんな事を考えながら農道を進んでいると、道路脇に軽トラックが停めてあり、日除けの帽子を被ったマダムが荷台を使って何やら作業をしていた。私達のおばあちゃんかひいおばあちゃん世代のマダムは、私達の気配に気付くと、 「まあまあ、子達だねぇ」 微笑みながら声を掛けてきた。とりあえず怒ってはいないようなので、 「こんにちはー! すいません、ここ通らせてもらっていいですか?」 「ああ、いいよいいよ。遠足かい?」 挨拶がてら通行許可を申し出ると、快くOKがもらえた。 「あっ、そんな所です。向こうの海水浴場にある海の家がゴールで……」 「あれま、あんなバカ遠いとこまで! うちっちワゴン車あるからそこまで乗せてこうか?」 「いえいえとんでもない! 歩いて目指すルールなのでお気持ちだけで……」 まさかの申し出に驚いた。マダムは悪い人じゃなさそうだけれど、初対面の人にそこまでしてもらうのは申し訳ないので、丁重にお断りした。
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