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「そう、暑いから気を付けなね! 良かったら、これ持ってきなよ」
「ええ!? あ、ありがとうございます……」
マダムは荷台のクーラーバッグから、四角い透明なカップに入った山盛りのイチゴを1パック取り出して私に手渡した。せっかくの厚意を断りっぱなしなのも悪いので、ここはありがたく受け取る事にした。
「良かったらまた遊びにおいで」
「ありがとうございました!」
別れ際に、全員でやまびこのように感謝の気持ちを伝えてその場を後にした。私が「マダムもお元気で!」と言ったら笑って返してくれた、最後まで優しい人だった。みんなには「なんでマダムなの?」って笑われたけれど、大人の余裕があって素敵だったから、自然とそう呼びたくなったんだよね。
でも、再び歩き出す中で、私の心は次第にモヤモヤに包まれていった。
「うーん、何だか罪悪感……」
「早川さんの気持ちわかるよ、何か落ち着かないね……」
ルージュのように鮮やかなイチゴを見つめながら、横にいる森田さんとともに考えにふける。なぜあの人は見ず知らずの私達にあそこまで親切に接してくれたのだろうか。私達はあの人の為に何かした訳では無いので、その答えが見つからない。
「また遊びに来た時にお礼すればいいんじゃない?」
「出来るかな……」
千佳ちゃんは簡単に言うけれども、ここは私達の住んでいる街からは遠く、おいそれと遊びに行ける場所では無い。ましてや、名前も連絡先も聞かずでは……。
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