ラストスパートの景色は

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ナビによれば、ゴールまでの距離は残り4㎞弱、海岸線をほぼ道なりに進めばいいとの事。今まで走ってきたおかげで時間的にも精神的にもささやかなゆとりが生まれ、私達は休憩を兼ねておしゃべりをしながらの歩きに移行した。たぶん、もう半分くらいは走らないといけないだろうが、アクシデント続きの行程を思えば、それでも充分ありがたい。 視線の先には2~30人の生徒が見え、目には映らない更に先を歩いているであろう人達を合わせると、100人くらいは前にいる事になる。私達も上から数えて300位以内には位置していると思われた。 「さあさあ、もうひと踏ん張りだ」 「あっ、あんな所に鳥が飛んでる。何の種類だろ?」 みんなもまだ余力が残っているみたいで、レイネは自他に言い聞かせるようにつぶやきながらしっかり前を見据え、森田さんはそう軽くもないカメラを顔の前に掲げて、上空を舞う鳥の姿を収めていた。 「詩乃ちゃん見て見て、あそこにタッキー達がいるよ」 「あれ、本当だ」 ふと千佳ちゃんが、数人の仲間と波打ち際を歩く瀧本君の姿を見つけた。彼はTシャツのすそを肩までとズボンもひざ下までまくり、下はスポーツサンダルという海辺仕様にカスタマイズした姿で歩いていた。時折白い歯も見せながら、友達の一人がウォーターガンを持って攻撃してくるのを巧みなステップでかわす姿も見られ、元気はつらつだ。 「背中がガラ空き……、これは絶好のタックル日和だね」 「そうでもないと思うけど……」 千佳ちゃんは水のビームを避けるのに夢中な瀧本君の姿を見て、よからぬ企みを思いつき、止める間もなく彼の背後に向かって突撃していった。ずっとしんがりを走っていた割に、いたずらする元気だけは満タンだ。
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