ランチタイム

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私達の視界から消えた彼女は、すぐに廊下側のガラス窓から姿を現した。どうにも怪しい雲行きに、私は席を立ち窓越しに様子をうかがう事にした。 創立百数十年・築数十年の校舎は少々傷みが目立つけれど、かえって新築には無い味を醸し出している事がある。この木製の窓枠も元は明るい黄土色だった物が長い年月で煤けて薄められ、細かなキズが無数に刻まれているが、みすぼらしいというよりは、むしろアンティークの写真立てのような風情さえ感じられる。きっと、私達よりも前にこの学校にいた人達の、何千何百もの学生生活の一瞬が、この額縁に収められてきた事だろう。彼らが胸弾ませて教室に入った朝、おしゃべりに花を咲かせた昼休み、こらえきれない涙に暮れた放課後――、実際に見た訳では無いがおそらくこのフレームに記憶されているであろう名場面を、私はスライドショーのように思い浮かべた。 ……と、そんなポエミーな空想に浸っている場合じゃないのは充分わかっていた。今そこに写っているのは千佳ちゃんとスマホで隠し撮りを試みていた男子のグループで、どう考えても感動的なシーンが生まれそうに無いキャスティングだった。 「アンタでしょ!? 勝手に写真をよそのクラスに送ったの!」 悪い予感が的中した。千佳ちゃんはグループに紛れていた同じクラスの田中君の袖を引っ張り、大声で猛抗議を始めた。 「だから? それがどうかした?」 ついに写真流出の犯人が田中君だと判明した。しかし、彼は悪びれる様子もなく、彼女の手をうっとうしそうに払いのけた。 「おい、このまま放っておいたらヤバいんじゃねえか?」 瀧本君が騒ぎを心配して、仲裁に入るかどうかを確認しようと私に声を掛けてきた。
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