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「あーあ、こんなに暑いのによくやるねぇ、信じられないよー」
元気な男子生徒達の姿は千佳ちゃんにとって暑苦しいだけにしか見えず、げんなりした顔で遠ざかる彼らの背中を見送っていた。
「私達もここまで来たら走るって決めてたじゃん」
「もういいっしょ、ゆっくりで。スローライフスローライフ!」
さっきまでの対抗意識はどこへやら、千佳ちゃんは完全に走る気を失くしてしまい、両手で扇ぎ身体を冷ましてエンジンを切るつもりだ。
さて、どうしたものか。腕時計で現在時刻を確認すると、午後2時37分を指していた。最後は走ると決めていたものの、残り約1㎞なら歩いても当初の制限時間である3時にはギリギリ間に合いそうだ。やりたくない事に関してはとことん頑固な彼女を無理矢理走らせるのはかなり難しいし、疲れた彼女がかわいそうな気もする。
「私達もここから走り出そう」
しかし、頑固なのは彼女だけでは無い。レイネは男子生徒達が棒きれで引いたスタートラインに立ち、着々と走る体勢を整えていた。
「レイネ、千佳ちゃんにはキツイんじゃ……」
「ならば、お千佳坊にはハンデを与えよう。一番先にスタートしていい。我々は1分後に追いかける故」
「やだ、走りたくない!」
レイネの頭の中には❝走らない❞という選択肢は存在せず、勝手にハンデキャッパー気取りで千佳ちゃんを先にスタートさせるつもりだ。
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