横一線のゴール

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もちろん、前を走っている人がいるので、多少はジグザグとかき分けながら進む必要があるけれど、これが一番いいやり方だと思う。 「詩乃、露払いを頼む」 「了解」 今いる場所は人が密集していて、2人並んで走ると他の人達にブロックされてしまう。だから、しばらくは私が先導役を務めて彼女がその後ろを進む事にした。 実は、足の速さには自信があった。昔から、短距離だけでなくマラソン大会でも学年トップクラスだったから、彼女の先導役はお安い御用だ。千佳ちゃんの非道徳的なご褒美だけは阻止したい為、遠慮なくスピードを上げていくと、そこら辺でふざけて走っているような男子達を並ぶ間も無く抜き去った。 先導役なので時々後ろを振り返り、レイネがピッタリと付いてきているのを確認しながらじわじわとギアを変えてゆく。横を見ながら「この10秒くらいの間で何人抜いたかな」と考えるのは気分がいい。 残り500mくらいの地点まで来ると、人混みのばらけた空間が生まれたのを見計らってレイネが左隣に並んできた。 「あそこに2人がいる」 「えっ、どこどこ?」 「あそこだ、あのラガーシャツの前にいる。追いつくぞ!」 異様に目がいい彼女が、50m先を走る森田さんと浮月さんの姿を捉えると、私よりも前に出て進撃を開始した。まだ半分はあるのにそんなに飛ばして大丈夫なのかと横顔をのぞいたが、心配ご無用だ。太陽に照らされた水面のようにキラキラと輝いて見える彼女を見て、誰がドクターストップをかけるだろうか。人間代表としてカミナリ様に負けじと、2人の姿を手繰り寄せるかのようにスピードを上げた。
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