横一線のゴール

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まさか千佳ちゃんがここまでやるなんて、ご褒美への執念は凄まじい。昔、お兄ちゃんが「人気薄の逃げ馬を侮るな」と言っていたのを思い出し、嫌な汗が吹き出した。 「大丈夫よ、そろそろあの子の足は止まるわ」 「そうかなぁ、まだいけそうな気がするけど」 浮月さんは楽観的だが、今まで見た事の無い千佳ちゃんの激走に、私は焦るばかりだ。 「まさか浮月さん、相手を動けなくするデバフ持ってる?」 「呪いはいかんぞ」 「呪いをかけるまでも無いわよ。あれをごらんなさい」 森田さんとレイネの冗談を華麗にスル―した浮月さんに従い、走りながら彼女の様子を観察すると、 「あっ、何だか遅くなってるような……」 明らかにスピードが鈍り、併走していた男子から遅れ出した。走るフォームも崩れ、時折走り方を忘れたかのようにスキップに似た動作が入るようになった。 「千佳ちゃん大丈夫かな……」 「浮月さん、何でわかったの?」 「いくらご褒美があっても、望月さんの体力では同じスピードで砂浜を走り切るのは難しいと思っていたわ。いいえ、むしろご褒美をちらつかせたからこそオーバーペースになって、限界が早く訪れる事は明らかだったとも言えるわね」 「一世一代の激走は、時に大いなる代償を伴う物なのだな」 浮月さんのあまりにもクールな分析に、レイネもうちのお兄ちゃんみたいな口調でうなずいた。2人とも少しは千佳ちゃんの事を心配してあげて欲しい。
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