海の家でのひと時

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「縁起物ではないか。玄関なりリビングなりに飾ってみてはどうだろうか」 「これを飾るの!?」 レイネはどんどん買う気になっているが、私はあまり気が乗らなかった。甲殻類独特の鎧みたいなカッコよさはあるけれど、日本家屋でない我が家にはミスマッチな気がする。額縁のサイズも高さ50cm以上あるし、場所を取るだろうな。 「しかも、今なら割引価格で購入出来るそうだ」 「安いかも……」 値札は10000円と表記された部分に斜線が引かれ、その上に5000円と書かれていた。まだ充分に高いけれど、半額と聞くとかなりのお得感がある。 「❝買いたい時が買い時❞って言うし、買ったらいいんじゃないかしら?」 「よし、これをいただくとしよう」 「や、ちょっと待って……!」 浮月さんたら、我が家の事情も知らず何て余計なアシストを。レイネはこの機を逃さず、財布を開いてお金を取り出そうとした。 「しまった、持ち合わせが足りぬ……」 しかし、財布にははく製を買うだけのお金が入っていない事に気が付いた。 彼女には天界から用意された潤沢な生活資金があるが、学費や家具等の生活に必要なお金以外は無駄遣いせず、おこづかいは私と同じ額に合わせてやりくりする事に決めていた。その方が、下界の暮らしをリアルに体感する事が出来るという考えからでもあった。 ただ、それでも出発前の彼女の財布には、7~8千円くらいのお金が入っていた。 「さっきの神社で5千円使っちゃったからじゃん……」 不足の原因は、彼女が坂の上の❝美臍神社❞で惜しげも無く5千円札を賽銭箱に入れていたからに他ならなかった。だからもったいないって言ったのに……。
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