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「そんなに欲しいのなら、早川さんが貸してあげたらどうかしら?」
「いや、人の情けに甘えるべきでは無い。湯水の如く使わず限られた額でやりくりしてこそ、市井の暮らしぶりを学べるという物」
真面目で頑固な彼女らしい考えだ。でも、我が家へのお土産を一生懸命選んでくれている訳だし、今日だけは貸してあげてもいいのかな。
「すみません、❝Raiden PAY❞は使えますか?」
「うちは現金のみだねえ」
ところが、はく製を諦めきれない彼女は、スマホの画面を提示して謎のキャッシュレス決済サービスを使おうとした。
このカミナリ様専用のアプリにはかなりのウォレット残高が入っているが、街中で使えるお店を見た事が無い。ましてや、キャッシュレス化されていない海の家では手も足も出なかった。
「お手上げだな。残念だが、はく製はまたの機会としよう」
「ていうか、そっちは使っていいの……?」
「❝特別会計の闇❞ね」
肩を落として残念がるレイネの姿はちょっと気の毒だったけれど、こうしてイセエビを我が家にお迎えする計画は無期限延期となった。
「はい、お待ち遠さま! 今から持ってくよ」
お土産を選びに悩んでいる間に、注文した食べ物が完成しお盆2つに乗せられていた。
「じゃあ私持って行きます」
「あ、私も」
それを浮月さんと私でおかみさんから受け取り、自分達で2階に運ぶ事にした。
「ありがと、悪いねえ」
「5千円か……」
私達は、イセエビへの未練からひとり言をつぶやくレイネを後ろに従えながら、急な階段を転ばない様ゆっくり上って行った。
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