岩場からのSOS

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こんな無理矢理な乾杯にも、会話のハードルを下げる効果があったみたいで、2階席は騒がしくも和やかな雰囲気に包まれた。私も、今まで話した事が無かったB組の子と、アイドルや先輩達の話をする事が出来た。 10分後には到着のピークとなり、2階に入り切れない生徒達が1階席を埋め始めると、海の家はようやくこの場にふさわしい賑わいを手にしつつあった。 千佳ちゃんは働きバチのごとく1階と2階をせわしなく行き来し、乾杯をしたり写真を撮ったりしていた。入学して1ヶ月でこれだけ話せる人が多いのは素直に尊敬出来るよ。 「あと1時間もこの場に居られないと思うと、実に名残惜しいな」 「それでも、まだまだ時間たっぷりじゃない?」 淡々とした口調ながら、レイネが早くも海の家との別れを惜しんだ。また来年来られるし、行こうと思えば夏休みに遊びに来る事だって出来るのに大げさだな。でも、それだけ今日1日を楽しんでくれたって事だよね。 「最後に外の景色を見ておこう」 「じゃあ私も」 さっきも言ったように、この景色は1年の内で浜歩き大会の日にしか見られないから、もう少しだけ見ておこう。縁側にはさっきよりも大人数が集まっていたが、床が抜けたり建物が傾いたりする事は無さそうだ。 時間を置いてみた縁側からの景色は少しずつ変化していた。 左手に見える砂浜では、だいぶまばらになったゴール前の生徒達の走る姿があり、ゴール付近に立っていた先生達が「急げ―!」とゲキを飛ばしている。なぜなら、空の曇りが濃くなり今にも雨が降りそうだったからだ。これだと、帰りまでもたないだろうな。
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