雷の影を追って

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❝視覚がダメなら嗅覚❞と、私は田中君が着ていた❝チャラーノ柄❞のアロハシャツを彼女に渡した。彼女は珍しく自信無さげに応じると、襟元から慎重に匂いを確認した。 「うーむ、こちらのような気もするが、よく分からぬ……」 彼女は私にアロハシャツを返して捜索を再開したが、上手く匂いの跡を辿る事が出来ず、右往左往するばかりだった。おかしいな、あれだけ鼻が利く彼女なのに。 「もしかして体調悪い? あそこで少し休もうか?」 「何のこれしき。そんな悠長な事を言っている訳にはゆかぬ」 すぐ近くに古びた屋根付きのバス停があったので、そこで休憩する事をすすめたが、彼女は首を縦に振らなかった。 ポツ……、ポツ、ポツポツポツ……!!―――――― 「うわぁ、雨だ!」 「何と折悪しき事か……」 捜索が難航している所に、大粒の雨が降ってきた。急いで傘をレイネに渡して一緒のタイミングで開いた。気付くのが早かった為、雨粒に肩を一刺しされただけで大きく濡れずに済んだ。 しかし、雨は地面を蜂の巣にする勢いで容赦無く降りかかる。それは地面に無数の波紋を作り出して雷の痕跡を隠し、また田中君の匂いの痕跡を洗い流してしまった。 「ゲリラ豪雨とは、運が無いな。これでは目も鼻も役に立たぬ」 「そんな……」
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