雷の影を追って

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でも、「ご両人」とは言うものの、周りに話を聞けそうな人はいなかった。この雨では誰だって外に出たくないから当然だ。こんな場所で誰の力が借りられるというのか。 目の前の道は二股に分かれており、どちらも上り坂になっていた。彼女はその二股の中心に向かって進んでゆく。そこは私の腰ぐらいの高さの石垣の上に藪が茂っており、人の姿なんて見当たらない。構わずズンズン近づく彼女の視線の先には、古ぼけたお地蔵さんが藪の中に埋もれかけているだけだ。 「もし、この近くを高校生の男女2人連れが通らなかったでしょうか?」 石垣の前まで来た彼女は、何を思ったのかお地蔵さんに顔を寄せて、田中君達の足取りについて聞き込みを始めた。まさか、「ご両人」がお地蔵様だとは思っていなかった。こんな時に冗談を言う彼女では無いと思うけれど、向こうはちゃんと答えてくれるのだろうか。 「お地蔵さんとお話出来るの!?」 「地蔵では無い、道祖神(どうそじん)だ」 私がお地蔵さんだと思っていた物は、道祖神だったらしい。ぱっと見お地蔵さんと区別がつかないが、こちらの像は1つの石に2人の姿が刻まれている。右側は男の人、左側は女の人に見える。表面は自然に削られて砂の様にボロボロで、相当昔に置かれた物の風合いを漂わせている。 「ふむふむ……。わかった、あちらだな? ご助力感謝する」 どうやら、道祖神から返事があったようだ。しかも、この口ぶりからすると相当有力な目撃情報に違いない。ありがたや道祖神様! 私はお2人の前で手を合わせ、ポケットに入っていた飴玉をお供えした。
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