小さな社の秘密

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「ああ、今ならまだヘソを取り戻せるであろう」 「じゃあ私も探すの手伝うよ」 おヘソの行方に全く当ては無いけれど、プロであるレイネのサポートくらいは出来るだろう。 「いや、ヘソは私が追う。そなたには他に頼みたい事がある」 「他に?」 ところが、彼女からはおヘソ探し以外のミッションを依頼された。その内容は――、 「まずは、彼らが獲った魚や貝を集めて、そこの水路に流してくれ」 田中君が獲った魚介類をリリースする作業だった。 彼がL字に身体を折りたたんで寄りかかっていた柱のそばには、底が抜けたバケツにコンビニの袋を被せた物が置いてあり、その中には沢山の魚や貝が入っていた。細長い形や小ぶりの鯛みたいな魚が数匹水中をホバリングし、底ではサザエや小さな2枚貝が石の様にひしめく、みっちりとしたアクアリウム状態だ。短い時間で良くこれだけの釣果があったものだと感心してしまう。 彼女の指示によると、水盤からあふれた水を外へ排水する溝に、それらを放流するのだそうだ。それも左右に伸びている溝の内、入口側に続く水路に流すのだという。 「えっ、でも……」 「説明は後だ。急いでくれ、一つ残らず(かえ)すのだ。念の為、ポケットの中もまさぐって調べておいてくれ。さて、ヘソはどこだ……」 「あっ、ちょっとちょっと……!」 大事な事をちゃんと前もって説明しないのが、彼女の悪い癖だ。伝えたい事だけ伝えて、彼女は本殿側に繋がる水路をなぞるようにしておヘソ探しに出掛けてしまった。
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