小さな社の秘密

7/15

67人が本棚に入れています
本棚に追加
/356ページ
わからない、何で今こんな所で魚や貝を放流する必要があるのだろう。今真っ先にやらなくてはいけない事は、田中君達のおヘソ探しだと思うし、私だってアマチュアなりに、いないよりは役に立つはずなのに。 そもそも、海の家を出た時から謎だらけだったけれど、社に着いた今でさえそれはほとんど解き明かされてはいない。こんな状態で2人を無事助ける事が出来るのだろうか。しゃがんで魚が入ったバケツを両手で持ったが、頭が混乱し過ぎて、次に立ち上がったら立ちくらみを起こしてしまいそうだ。 でも、こういう時のレイネは決して無駄な指示を出した事が無かった。だったら、今回も彼女を信じてみよう。 私はゆっくりと立ち上がり、バケツの中身をこぼさないよう一歩一歩入口側の水路へと進んだ。 「ささ、早くお逃げ」 水路の入口に着いたらまたしゃがみこみ、そっとバケツを傾けた。まず魚がロケットのように勢いよく飛び出し、続いてバケツの底を上にしてサザエや貝を全部水路に流し込んだ。 ただの排水溝だと思っていた水路は、意外と間口が広くてあふれたり詰まったりせず、底も魚が腹びれをこすらないくらいの深さがあった。魚はすぐに姿が見えなくなり、サザエ達貝も水の流れによって入口から少しずつ遠ざかっている。あっ、小さなエビも入っていたんだな。 おっと、のんびり厳禁だ。レイネに言われた通り、田中君達のポケットの中を確認しないと。 再び2人の所へ戻り、彼の海水パンツのポケットに手を入れて探ると……、右ポケットに小さなサザエが2つ、左には名前の知らない巻き貝が10個、そして念には念を入れて探ったアロハシャツの胸ポケットにもヤドカリが1匹潜んでいた。
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加