大切な物はいつも

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大切な物はいつも

刹那の出来事に、叫び声もあげる暇も無かったのだろう。 鳥は羽根一枚散らす事無く、レイネの電撃に貫かれたまま、静かに宙に浮かんでいる。 その身体が地面へと叩きつけられないのは、電撃が常にレイネの指先から一筋の光として放たれ、(たこ)のように空へと縛り付けているからだ。 しかし、浮かぼうと落ちようと、一つの命が失われた事に変わりは無い。おヘソを取り返す為とは言え、見たくなかった光景だ。今の私に出来る事と言えば、残酷なシーンを見てショックを受けているのを彼女に悟られないよう、ポーカーフェイスを装うだけだ。 それも余計な気遣いなのか、彼女は顔色一つ変えず、空に伸ばした光を右手でつかんで左の手首に巻き取り始めた。 すると、鳥の身体が徐々に地面へと降りてきた。彼女は凧を降ろすみたいにゆっくりと鳥を引っ張って袋を回収するつもりなのだろう。そのもくろみ通り順調に高度が下がってゆく。 だが、ここでおかしな事に気が付いた。鳥の姿は飛行姿勢を保ちながら、少しずつ小さくしぼんでいるように見えた。近づいてきているのに大きさは変わらず、むしろ首にかけている小さな袋の大きさに迫っている気がする。 そうして、深海の水圧にかけられたカップ麺の容器のように縮んでしまった鳥は、袋よりも小さな姿となって地上3mくらいの高さまで降りてきた。この大きさでは、袋の運び役はとても務まりそうに無い。 「このままだと、紐が首から抜けて袋が落下する恐れがあるな……。詩乃、下で袋を受け取る体勢を取ってくれ」 「わかった」 レイネに言われて私は鳥の真下に入り、いつ袋が落ちて来てもいいように待機する事にした。
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