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そう、今日一日彼女はよく頑張った。バス酔いもしなかったし、みんなとも仲良く過ごせた。砂浜や山道でも泣き言一つ言わず進んだし、歩き疲れた後だというのに、迷惑をかけられた田中君を助ける為必死でこの場所を探し当てた。
でも、これだけ頑張っても2人のおヘソを取り戻す事が出来なかったら……。いくら❝敢闘賞❞や❝努力賞❞をもらっても、解決出来なければ意味が無い。
黒い鳥は斜め上空へと進む。あの鳥の姿が見えなくなったら、これまで集めてきた色々な物が失われてしまう気がした。
私にも何が出来ないかと、玉砂利を拾い集め、飛ぶ鳥目がけて投げつけてみた。しかし、鳥は紙一重で石をかわしたばかりか、1個は胴体に命中したのに平然と空を飛び続けている。
やはり普通の鳥じゃない、この鳥もカミナリ様が遣わした運び役の色違いの1羽なのだろう。まさか、代役がいるとは思わなかった。
もうお手上げだ。歯を食いしばっても拳を握りしめても、鳥が戻って来る事は無い。悔しい、最後の最後でこんな事になるなんて。
「おのれ……」
その想いは彼女も同じだったようで、静かに恨み言をつぶやいた。きっと私の何倍も悔しく思っている事だろう。
しかし、彼女はやっぱりカミナリ様だった。
ふと彼女の目がギラリと光ると、立ち尽くす事しか出来ない人間の私に向かって猛然とダッシュを開始した。
「詩乃、ヘソを!」
「は、はいっ!!」
3歩手前まで近づいた彼女の言葉に逆らえない圧を感じてしまい、私は理由も聞かず急いでTシャツのすそをまくった。神社で無闇に肌をさらすのはいけない事だとわかっているけれど、今日だけは見逃して欲しい。
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