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「ヘソにピアス――、是即ち天下の大罪」
「誰が決めたの? それ……」
レイネが大真面目な顔して謎の大罪について説くから、おかしくて力が抜けそうになってしまった。彼女的にピアスは許せなかったみたいだけれど、ひとまずおヘソの状態に問題は無いそうだ。
こうしておヘソを取り戻した私達は、手水舎へと向かった。2つの玉は、レイネの右手の中で円を描いて転がっている。
彼女は手水舎の前で立ち止まると、左腕を空高く掲げた。すると、たちまち数本の雷が晴天のキャンバスの中を駆け巡った。
海の家がある海岸まで轟いたであろう雷には、見覚えがあった。先月駅前で起こった事件の最後に彼女が放っていた物と同じだとすれば、この雷には催眠術のように人々の記憶をコントロールする力があるはずだ。未だ目の覚めない田中君達の記憶も、起きる頃にはぼんやりとした物になっている事だろう。
「さあ、ここから先は忙しくなるぞ」
一通り打ち鳴らし終えた彼女は、余韻に浸る事無くただちに手水舎の屋根を潜った。そして、水盤から柄杓で水をすくい、2つの玉にかけて清めた。
彼女はまず鈴木さんの前に腰を下ろし、左手で摘まんだ玉を出しっぱなしのおなかにあてがい、中へと押し込んだ。玉は光を放ちながら徐々におなかへ食い込んで行く。ちょっと痛そうだけれど、鈴木さんが苦しさに顔を歪める事は無いので、じっと見守る事にした。
やがて光が収まると、玉は跡形も無く消えて、鈴木さんのおなかにはピアスのついたくぼみだけが残った。
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