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「何かよく思い出せないんだけど、田中と岩場にいる内に雷が鳴っちゃって。そんで避難しになぜかこんなとこまで逃げてきて、いつの間にか気を失ってた? って感じ」
「た、大変だったね……」
レイネ曰く、2人は岩場から雷に追いかけられてこの社まで来て、おヘソを取られてしまったとの事。その辺りの出来事は既に鈴木さんの記憶の中でぼやけ始めていた。これなら無かった事に出来るかもしれない。
田中君はどうだろう、ドローン墜落事件の時のように怪しまれないだろうか。
「俺が獲ったのが消えてる! クソ、何で無いんだよ!?」
ところが、雷の事をすっかり忘れてしまったのか、彼は穴の開いたバケツをのぞきこみ、自分が獲った魚介類が一つ残らず姿を消してしまった事に強いショックを受けていた。
「それは……」
魚達を水路に流したのは私だ。たとえ悪気は無くとも、こんな状況で素直に「私がやりました」とは言い出せなかった。
「魚が窮屈そうだったのでな。代わりに水路に流しておいた」
もっとも、指示をしたレイネは容赦なく事実を伝えてしまったのだけれど。
「はぁ!? 人の物を勝手に流すんじゃねえよ!」
「やめなよ田中!」
それを聞いた田中君は烈火の如く怒りをあらわにし、今にも食ってかかりそうな距離でレイネを見上げてにらんだ。仲裁しようとした鈴木さんの手は彼の肩をつかんでいるが、果たしてどこまで抑えつけていられるだろうか。
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