ベッドの上で昔ばなしを

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「そこで雷は盗人(ぬすっと)を捕まえる為の罠を仕掛けた。古の記録によれば、禁漁区を設けた上で、(まじな)いの力を込めた宝珠や(ふだ)を区域内から社の一帯に巡らせた。それらは、人や雷に代わって耳目の役割を果たし、盗人が禁漁区で魚を獲れば呪いの力が作用し、(たちまち)ち稲妻が落ちるという物であった」 「防犯センサーみたいなのって事?」 「まあ、今風に言えばそうなる」 昔ばなしやファンタジーの世界で時々登場する呪いの力が、こういう使われ方をしていたとは。田中君が密漁をしていた場所には魚釣りを禁じた看板が立っていたが、あそこは昔から禁漁区だったようだ。 「雷とて無用な殺生は好まぬから、すぐに獲物を海に還せば稲妻は止む。だが、虚仮(こけ)(おど)しと(あなど)り還さぬのならば、その者を永久(とこしえ)に追い立てる、それはもう❝執念深く❞な」 「うはぁ、おっかない……」 彼女の語気に凄みが感じられた。昔のカミナリ様にだってプライドはあっただろうし、逃がすつもりなんて無かったんだろうな。 「盗人は獲物を還さぬ限り、自らの退路を選ぶ事すら叶わぬ。稲妻は絶えず背後から迫り、時に行く手を塞ぐ。岩場の凹凸は(もの)()の幻をその目に映し出し、恐怖に(おのの)いた盗人の足は自然と浜辺を離れ、社へと誘われて行くのだ」 「もしや……」 田中君達も、罠の狙い通りに社へエスコートされてしまったのだろう。岩場にあった落雷の痕跡と落ちていたアロハシャツ、砂浜から道路に上がる階段に散らばっていた貝の姿が、今になって彼らが陥った恐ろしい逃走劇を鮮明にイメージさせてくれた。
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