ベッドの上で昔ばなしを

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「息を切らし、雷避けとばかりに逃げ込んだつもりの境内で、盗人は()ぜる玉砂利の音と共に、不思議な声を耳にする事になる。❝カエセ……、カエセ……❞と風が鳴くような声を聴きながら、盗人は手水舎へ潜り込むのだ」 「それって一体誰が……?」 「いや、誰もおらぬ。そのように仕組まれた物だからな」 もしかして、「無人の仕掛けに追い詰められている」と言いたいのかな?すぐには信じがたいけれども、シチュエーションは田中君達が遭遇したものに限り無くシンクロしてきている。 「そして、四方が開いている筈の手水舎はいつの間にか電撃の層に包まれ、檻の如き空間の中で盗人は逃げ場を失う。❝カエセ❞の声は次第に大きく力強く手水舎を取り囲むように合唱し、稲妻が合いの手の如く打ち鳴らされ、盗人に最終決断を迫る。無論、ここにも盗人以外の姿は無い」 「……」 何だかどんどんトーンが怪談じみてきたが、ここは息を吞んで彼女の話を聞くしかない。 「すぐに獲物を手放す意思を見せればお(とが)め無しだが、(なお)も執着して離さぬ者には、遂に裁きの(いかずち)が振り下ろされる。手水舎に仕込まれた呪いの力により、檻の中に稲妻が乱れ飛び、盗人は悶え苦しみ、気絶するまで続く。不思議と衝撃で死ぬ事は無かったようだが、……代償としてヘソを奪われる」 「ああっ……!!」 田中君達はこうしておヘソをとられてしまったのか。実際には見ていないはずのシーンなのに、脳内では生々しいショッキング映像として再生されてしまい、思わずベッドの上でのたうち回った。
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