ベッドの上で昔ばなしを

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「雷はそなたが思っているよりずっと慈悲深いのだぞ?」 「そ、そうかなあ……」 彼女はそんな私のリアクションがお気に召さなかったらしく、突然先人(?)へのフォローに入った。 「盗人が目を覚ました時、雷と村人に囲まれた中、奴らはこれから待ち受ける仕置きに震えながら命乞いをしたであろう。その時、反省の色が(しか)と見られれば、雷は率先してヘソを返して直ちに解き放っていたという。懲りずに何度も盗みを繰り返すような不届き者もいたようだが、それも再びヘソを取り上げ、改悛(かいしゅん)の情を示すまで本殿で預かっていたと聞く」 「あっ、それは意外と優しいかも……」 強く罰されて当然の密猟者に対してかなり優しいというか、だいぶ気が長い印象を受けた。昔のカミナリ様には、意外と温厚なタイプが多かったのだろうか。 「まあ、中には七たび繰り返しても改めないような厚顔無恥の輩もいて、そのような場合は容赦無くヘソを引っこ抜き、人間の手の届かない天界に送ってしまうのだが」 「やっぱり怖いかも……」 「引っこ抜く」という言葉で、地獄のエンマ様がペンチみたいなので罪人の舌を抜くようなおっかないシーンを想像してしまった。昔のカミナリ様って、普段は温厚でも怒らせると怖いタイプだったのかもしれない。 「だが、詩乃よ。雷ばかりが残酷で恐ろしい存在なのだろうか? (かえ)って人間の方が恐ろしい事もある。もしも、捕らえた盗人を人間だけで裁いていたらどうなるか。おそらく、怒りや憎しみに任せて袋叩きにするのではないだろうか。さすれば、(やから)には七度目の盗みの機会など訪れようも無いが、果たしてそれが善き事なのか……」
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