ベッドの上で昔ばなしを

10/23

67人が本棚に入れています
本棚に追加
/356ページ
「いや、恐らく今回が初めてだったであろう。持ち物からも計画に周到(しゅうとう)さがうかがえぬし、鈴木萌奈は明らかに彼の気まぐれについて行ったという感じであったからな」 「そうだよね」 彼女も、2人が密漁の常習犯である可能性を否定した。本気で獲るつもりなら、もっとちゃんとした装備を用意するはずだ。なのに、彼が獲った魚や貝を入れていたのは穴の空いたバケツで、入り切らない獲物はシャツやズボンのポケットに入れていた。後で彼が見せてくれた釣竿は、ペンのように小さく折りたためるコンパクトな代物で、大物釣りは出来そうに無かった。用意周到どころか、行き当たりばったりにすら思えた。 「えっ、だとしたら何で!?」 そうだ、話が違う! 彼女の話だと、最大7回も密漁のチャンスを与えてくれる(?)寛大なカミナリ様なのに、今回は1発アウトだなんて。たまたま虫の居所が悪くて見逃して貰えなかったのだろうか。 「今回の盗みは売り(さば)ける程の量では無かったし、本来なら若気の至りで済んだであろうな。だが、その判断も管理者たる雷がいてこそ下せる物」 「あ……。そう言えば、誰もいなかったよね!」 「ああ。あの社の仕掛けも、ヘソを取るまでが無人で事足りても、その後の工程では雷の判断と操作が不可欠だったようだ」 「それって、自動車工場みたいな事?」 「それは私にはわからぬ」 小学校の頃社会科見学で自動車工場に行った時、案内係のおじさんが「オートメーションシステムも所々で人の手作業やチェックが必要で、まだ完全に自動化出来ていないんですよ」って説明してくれたのを思い出した。もちろん、彼女には伝わらなかったけれど。
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加