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「境内のイチョウって、緑の若葉の木と黄色い葉っぱの木が交互に並んでたと思うんだけど……、なぜか黄色い方は写ってないんだ」
「えっ、何で!?」
彼女の言う通り、境内には若葉と秋の葉が混座り合い、この世の物とは思えない幻想的な風景を作り出していた。ところが、それを収めたはずの写真には、緑の若葉は写っているのに、光り輝く黄色の秋の葉はどこにも写っていなかった。若葉茂る木の間には、葉をつけていない裸の木が写っているだけだ。若葉のついた枝が横に長く手を広げているのでみすぼらしいイメージは無いものの、あんなにレアな風景を見た後では、ややインパクトに欠ける。
「やっぱり早川さんも見たよね?」
「見た。これ、写真を加工したって事は……、無いんだね」
「うん。他の人も❝見たけど写真には写ってない❞って言ってるんだ。ネットでも❝#神域の幻❞ってちょっとバズりだしてるんだよね。このまま行ったらトレンド入りするかも。後で望月さんや天宮さんにも聞いてみよう。あっ、加藤さーん、ちょっと聞きたい事があるんだけどー!」
森田さんは更に情報を集める為、窓側の席に座っている加藤さんの方に移動して行った。
(たっ、大変だっ!)
これは一体どういう事なんだろう、胸のざわめきが止まらない。
そうだ、レイネなら神様つながりで何かわかるかもしれない! 彼女は今どこにいるんだろう。せわしなく首を左右に動かして探すと、廊下の片隅に一人佇む彼女の姿があった。私はもういてもたってもいられなくなり、スッと席を立ちあがって彼女の下へ向かった。
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