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「それでは、第1グループのみんな、心の準備はいいかな? 演技スタート!」
部長の合図でお芝居がスタートした。台本の内容は部長など2年生部員数人と演じる見学者達しか知らないので、どんなストーリーと役どころかは私達観客も「観てからのお楽しみ」だ。
全員が注目する第一声は遠山先輩で、片手で持った台本を自分の目の前に大きく広げながら、
「ああ、畑耕してたら腰が痛くてかなわん。あん馬鹿息子が、どこで油売っとるんだ。おう婆様、うちの亀吉さ見ねかったか?」
おそらく、内容は日本の昔ばなしだと思われた。カッコつけの彼には似合わないセリフに、スタジオからさわさわと驚きの声が上がった。
彼も彼で、声に全く抑揚が無いし、畑仕事で腰を痛めたお百姓さん役だというのに腰はまっすぐ伸ばしたままで、役になりきろうとする気が感じられなかった。
そのセリフを受けるお婆さん役はレイネで、腰を曲げて杖を持つような手の形で彼の方を向くと、
「お前んとこの倅なら、川っ淵の岩の上で臍出して昼寝しとったぞ。寝ぼけて水の中さ落ちねように尻叩いて起こしてやったら、『ぜんまい採りに行かんと』っつって、慌てて山の上分け入って行っただ」
初めてにしては堂々たる口調でセリフを読み上げた。
先輩よりは役に近づこうとする意志が伝わってきたが、こちらも本物のお婆さんには程遠い出来だ。こんなお侍さんみたいに凛々しい声のお婆さんはいないだろうし、そもそも青い目に金髪の彼女に和風のキャラを演じさせる事自体、無理があったのかもしれない。
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