放課後の分かれ道

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放課後の分かれ道

「遠山君ハ何ヲ演ジテモカッコイイデスネー」 演技を終えて戻ってきた遠山先輩を、米満先輩が心にも無い言葉で迎えた。口調も彼をからかうような棒読みスタイルだ。 「皮肉かよ。あんなシナリオじゃ本気出せねーって」 彼もあれがベストだとは思っておらず、負け惜しみを言っていたが、部活紹介なんだからもっとやる気を出すべきだったと思う。あんな演技じゃ部のイメージダウンに繋がりかねない。 でも、あれはあれで意外な効果があったみたいで、 「刑事さん……、何を根拠にそんな事を仰るんですか?」 「あなたは、一昨日の晩『ホテルのバーで船木社長と飲んでいた』と言ってましたが、私にゃどうもそれが気になりましてね。その辺をもう一度洗い直してみたんですよ。そしたら……」 第1グループのレベルの低い演技を見て「どう演じてもあれ以下にはならない」と勇気づけられたのか、後続グループは適度な緊張感を持ちつつも、のびのびと動く事が出来た。 このグループには癖のある刑事役を楽しそうに演じる子がいたし、この次のグループでは悲劇のヒロイン役が涙を一粒こぼしてみんなを驚かせていた。 結果的にお芝居は盛り上がり、スタジオの空気は活気にあふれていた。 「鉄は熱いうちに打て」とばかりに、部長がミュージカル公演の内容と当日までのスケジュール説明に入った。 その説明によると、ミュージカル公演は6月下旬に隣の講堂を使って行われる。主に在校生とその家族やOB向けに発表する物であり、秋の文化祭での演劇発表に向けての叩き台としても重要な舞台だと言う。
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