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一体、今日何回このパターンに遭遇しただろう。言うまでも無くレイネの声だった。
「ああ!? またあんたか!」
「ふん、それはこちらの台詞だ」
彼女は梶本先輩の凄みにひるむ事無く、私の隣に一歩進んで応じた。その横顔が、段々と熱を帯びていくのを感じた。
実は、彼女と梶本先輩が会うのは今日が2回目で、初めて会ったのは連休中のある日、ショッピングモールで買い物をしている時だった。私にダンスの事でお説教してきた先輩を彼女がピシャリと一喝してしまい、お互い最悪の第一印象を持っていた。
彼女は気が短いという訳では無いがプライドの高い面があり、先輩も「ガハハ、いい度胸だ、気に入った!」なんて広い心で受け止めてくれるタイプではないだろうから、もはや衝突は避けられない気がした。
「先程から聞いていれば、つまらぬ事をグダグダと宣いおって……。おい、詩乃、どこかに耳を洗う井戸は無いのか? 耳が汚れて腐りそうだ」
「いや、その……」
「何だって!? あたしにケンカ売ってんの!?」
彼女は耳たぶをこすりながら、不機嫌そうに私にたずねた。どこでそんな芝居がかったセリフを覚えたのだろう、答えに困るような事を聞かないで欲しい。ちなみに中庭に枯れた古井戸があった気がしたが、今にも噛みつきそうな先輩の前ではとても言える気がしなかった。
「喧嘩を売ったのはその方であろう。己の指導力不足を棚に上げ、皆を怠惰の型にはめて罵倒するなど、片腹痛いわ」
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