夕暮れの帰り道

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目の前で脅された米満先輩は、ひらりと身をかわして彼女と距離を取った。 口では「怖い」と言っておきながら特に怯えた様子は無く、いつものおっとりした先輩のままだ。かわし方にしたって、相手の動きを読んでいたかのように軽やかな身のこなしだったし、何となく扱い慣れているように感じた。 「梶ちゃん、このままじゃまずいよ……」 「梶本さん、一回冷静にならないと指導効率が悪いよ。ちょっとだけ福士さんと僕と3人で上に行って話そうよ」 「……わかった」 福士先輩と部長の説得により、何とか彼女も話が出来るまで落ち着いた。 上の階には衣装置き場や旧教室等いくつかの部屋があり、部長達はそのどれかを使って話し合いを行うらしい。 「俺も行っていいか?」 遠山先輩がそれに加わろうと手を挙げた。珍しくいつものナンパスマイルを封印し、至って真剣な面持ちだ。 「いいよ。じゃあ米満さんは残って練習の指示を出してくれる? 残りのメンバーで出来る練習をやってて欲しいんだ。内容はおまかせするよ」 「かしこでーす」 そうして、部長達4人はスタジオを出て3階へと向かった。 彼らが出て行ってしばらく、スタジオのみんなは声を出さずに、階段を昇っていくドスドスとした重たい音を注意深く聴いていた。それが登り切ってタイルをこするキュッキュッとした軽い音に変わると、今度は天井を見上げて「彼らが今どの辺りにいるか」を目で追った。 最後にドアの閉まる音が聞こえた事で、みんな「ようやく一息つける」と、大きなため息を吐き出した。
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