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「おお、すまぬ。流石はそなたのヘソ、疲れ果てた私の身体をたちどころに癒すとは、驚くべき力。全く、有難い事だ」
「いや、そうじゃなくてさ……」
彼女は私の言った言葉の意味を全く分かっていなかった。お地蔵さんじゃないんだから、私のおなかの前で手を合わせるのはやめて欲しい。「おヘソに感謝されても……」と複雑な気持ちになったが、諦めて自転車のカギのロックを外した。
いざ帰り道へとペダルを漕ぎ出そうとして、ふと思いついた。
「あ、そうだ。ちょっと駅前に寄ってこう」
「駅前? 何故だ?」
「なんか無性にフライドポテトが食べたくなってさ」
今日は色々あったせいか、とてもおなかが空いてしまい、買い食いしたい気分に誘われていた。
「『病み上がり』が真っ直ぐ家に帰らなくて良いのか?」
「小野寺先生も言ってたでしょ?『ゆっくり帰れ』って」
「そういう意味では無かったと思うが」
これだけ元気な病み上がりの人もいないだろうに、そういう所は頭が固いんだなあ。
「いいから付き合ってよ」
「やれやれ、仕方が無いな」
時計の針は6時前を差していたが、それでもなお辺りは明るく、自転車のオートライトもかすかに光っているだけだった。ここから駅前まではそれ程遠くないし、寄り道してから帰っても真っ暗にはならないと判断し、少し強引に彼女を連れて駅前に進路をとった。
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