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初夏の浜辺には
「うわ、風気持ちいい! 海、行っきまーーす!!」
「バカ、窓開けて叫ぶんじゃねーよ!」
男子生徒のはしゃぎ声に車窓をこする風の音――、まだだいぶ早い夏の足音を追いかけるかのように、私達を乗せてバスは走る。
今日は待ちに待った『浜歩き大会』の日だ。
これは我が校の行事の一つで、全校生徒が県内にある海岸を歩く、一種の遠足みたいな物。約20㎞先にあるゴールを目指して歩く中で足腰を鍛えるとともに、通常の学校生活からのリフレッシュ、更には生徒同士や先生達とのコミュニケーションを図る為の重要な伝統行事として位置づけられている。
舞台となる海岸までは車で約1時間弱の道のりを、クラス毎に貸し切りの観光バスに乗って向かう。
浜歩き大会は学校行事ではあるものの私服での参加が基本となっていて、それによって遠足感が強調され、今すぐどこかへと飛び出して行きたくなりそうな解放感を生む。しかも、私達1年生にとってはこれが初参加という事もあって、バスの中は誰も眠れないくらいのはしゃぎっぷりで賑わっていた。さっきの男子の恥ずかしい叫びだって、思わずやってしまった気持ちが分からなくは無かった。
もちろん、考え方は人それぞれで、中にはこんな人もいる。
「高校生にもなって海に遠足なんかだりぃよな。幼稚園児じゃねえんだし」
「わざわざバスで行かなくても近くに海あるしな。俺、途中でバックレようかと思ってるわ」
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