初夏の浜辺には

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斜め前方の席に座っている男子ペアは、斜に構えた態度で他のみんなが聞いたら盛り下がりそうな話をしている。でも、そんな彼らの足元は波打ち際を歩いても大丈夫なスポーツサンダルでばっちり決まっていて、リュックサックからは大きなタンクの付いた水鉄砲がはみ出していて、楽しむ気満々なのがバレバレだ。事実、強制では無いにもかかわらず、毎年ほぼ全ての生徒が参加しているらしい。 「心地よい風だ。斯様(かよう)な風なら、空に浮かんで流れに身を預けるのも悪くは無さそうだ」 「そうかもね」 私の隣に座っている窓側のレイネが、ウェーブヘアをなびかせながら優雅につぶやいた。カミナリ様である彼女は空を飛ぶ事が出来るが、人目に付いてはマズいので、なるべく術を使わないようにしている。 そういえば、彼女に浜歩き大会を説明した時の反応も、あまり歓迎的ではなかった。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 「何だ、その催しは。やっと入学が叶ったと思ったら、一週間も経たずに授業が中断とは忌々しい。学校とはそんな(たる)んだ考えで良いのか? 勉強をせい、勉強を!」 「してたんだよ、は」 下界の教育事情を学びたい彼女にとって、浜歩き大会は単なる遊びにしか思えなかったみたいで、やっと得られた学ぶ機会を奪われた事に腕組みして険しい顔で不満をたれた。 でも、彼女以外の生徒は4月から1ヶ月も忙しくて大変な学校生活を送ってきたから、この辺でちょうど息抜きが必要な頃だし、元々浜歩き大会は4月の末に行われるのが恒例なので、むしろ遅くて待ちくたびれたくらいだ。
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