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「何と頼りない物言いだ。仕方ない、後は自ら補うとしよう。詩乃、図書館に行って文献にあたろう」
「いや、そこまでは……」
彼女を納得させる為にその場しのぎで紡いだ適トークが、面倒な事に彼女の向学心に火をつけてしまった。
今更「遠足みたいな物だから、何も考えずに楽しめばいいんだよ」とは言えず、学校の図書館まで付き合う事になった。彼女に質問されて私が司書がわりに薦めた本を2人分借りられるだけ借りて、家に運び込んだ。
彼女は学校から帰ると私達の部屋で着替えてすぐに真新しい机へと向かい、10冊借りた本の分厚い1冊目を開いた。
「中々に読みごたえがありそうだ」
私なら数ページ読んだ所でギブアップしそうな本を、腕まくりしながらやる気充分の表情で目次から本文へとページをめくった。
「どれどれ。『我が県が誇る景勝地として名高い海岸は、滋味溢れる食材の供給源として……。縄文時代の集落跡からは貝塚が発見され、同様の形跡は丘陵部にまで見られる事から……』」
内容を独り言のように音読する様からは、参考程度に眺めるのでは無くレポート作成に近い真面目な雰囲気が漂っていて、何となく邪魔をしてはいけないような気がした。
結局、その日は晩御飯の時以外ずっと本に目を通し、私がベッドに入った後もデスクランプの灯りだけを頼りに黙々と読書を続けた。
次の日以降も授業の合間の休み時間を全て読書の時間にあて、家に帰ってからはダンスの自主練習もそっちのけで研究に打ち込んだ。
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