初夏の浜辺には

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「あっ……、それは浜歩き大会の予習に本を読んで勉強しているんだよ」 私とレイネの2人部屋の隣がお兄ちゃんの部屋で、おそらく彼女が本の内容を読み上げている声が漏れてしまったのだろう。 「予習? たかが浜歩きにそんな物必要無いだろ。一体どんな本を読んでいるんだ?」 「えーと、海岸がある町のこーんな分厚い町史とか、車の写真がいっぱい載ってる『交通の歴史』みたいな本とか……」 「ますます要らないな……。行く前にそんな物を読む奴なんていないぞ、大学のフィールドワークじゃないんだから」 お兄ちゃんは心底呆れた表情でおでこに手をあてると、ショックで少しズレた眼鏡を片手でグイっと持ち上げた。 「それはそうなんだけど、これには深い訳があって……」 お兄ちゃんに「レイネに浜歩き大会の意義を説いている内に話を盛ってしまい、彼女が真に受けてしまった」という経緯を打ち明けた。 「そうか、つまりお前が原因か。全く、余計な事をするんじゃない。高校生になっても相変わらずの『うつけ詩乃』だな」 「ごめんなさい……」 彼が相手を見下す時の冷たい視線が、容赦なく私に突き刺さる。「うつけ」は言い過ぎだと思うが、私の責任は否定出来ないので反論するのを諦めた。 「まあ、その知識だって決して無駄と言う事も無いんだろうが、使う機会には恵まれないかもな。どうせなら、もっと即効性のある知識を教えてやれ」
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