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「待て、普段の俺はどんな風だ……?」
「いや、変な意味じゃないんだけど、『優しすぎる』っていうか……」
彼が「心外」だと言わんばかりの険しい表情をするので、怒られないかヒヤヒヤでぎこちない弁解をしてしまったが、一応ほめ言葉のつもりだ。
彼女が来てから、お兄ちゃんがアドバイスをくれる事が多くなった気がする。前までは、私の方から聞けば最低限のヒントだけは与えてくれるが、「あとは自分で考えろ」と突き放すタイプだったからだ。
「ふん、うるさくて迷惑だから早く黙らせたいだけだ。『余計な事はせず、早く寝ろ』とでも言っておけ」
「またまたそんな事言っちゃってぇ。『お兄ちゃんはレイネちゃんの事が心配で夜も眠れないよ(*´ω`)』って伝えておくから!」
「こらっ! 大噓をつくな、馬鹿詩乃!」
意表をつかれて驚いているお兄ちゃんを尻目に、私は階段をダッシュで駆け上がった。
私だってビックリした。クールな彼が本当に「レイネちゃん(*´ω`*)モキュ(*´ω`*)モキュ」しているとは考えられないが、彼なりに彼女を心配しているのだろう。
自分の部屋の前で息を整えてからドアを開けると、
「一里塚が……。道祖神と地蔵が……」
中では相変わらずレイネが資料解読に没頭していた。普段は聞き取りやすい声がか細く途切れ、良かったはずの姿勢も頭がだらりと垂れて、鼻先がページにくっつきそうだった。まるで、試験間近の追い込みでノイローゼになった受験生のようだ。
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