初夏の浜辺には

10/14
前へ
/356ページ
次へ
「待て、普段の俺はどんな風だ……?」 「いや、変な意味じゃないんだけど、『優しすぎる』っていうか……」 彼が「心外」だと言わんばかりの険しい表情をするので、怒られないかヒヤヒヤでぎこちない弁解をしてしまったが、一応ほめ言葉のつもりだ。 彼女が来てから、お兄ちゃんがアドバイスをくれる事が多くなった気がする。前までは、私の方から聞けば最低限のヒントだけは与えてくれるが、「あとは自分で考えろ」と突き放すタイプだったからだ。 「ふん、うるさくて迷惑だから早く黙らせたいだけだ。『余計な事はせず、早く寝ろ』とでも言っておけ」 「またまたそんな事言っちゃってぇ。『お兄ちゃんはレイネちゃんの事が心配で夜も眠れないよ(*´ω`)』って伝えておくから!」 「こらっ! 大噓をつくな、馬鹿詩乃!」 意表をつかれて驚いているお兄ちゃんを尻目に、私は階段をダッシュで駆け上がった。 私だってビックリした。クールな彼が本当に「レイネちゃん(*´ω`*)モキュ(*´ω`*)モキュ」しているとは考えられないが、彼なりに彼女を心配しているのだろう。 自分の部屋の前で息を整えてからドアを開けると、 「一里塚が……。道祖神(どうそじん)と地蔵が……」 中では相変わらずレイネが資料解読に没頭していた。普段は聞き取りやすい声がか細く途切れ、良かったはずの姿勢も頭がだらりと垂れて、鼻先がページにくっつきそうだった。まるで、試験間近の追い込みでノイローゼになった受験生のようだ。
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加