サービスエリアにて

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サービスエリアにて

バスは快調に進み、もうすぐサービスエリアに到着する。 「はーい、カラオケやりまーす!」 車内では、陽キャの有志(ゆうし)達によるカラオケ大会が行われようとしていた。彼らの有り余る元気と興奮はじっとしていたら爆発してしまいそうで、それを逃がすために歌うようにも思えた。 さっそく、外の迷惑にならないよう、みんなで手分けして全ての窓を閉じる。 ここでは、静かに眠りたかった人も、窓を閉めて暑くなるのが嫌な人もお構いなしに巻き込まれてしまう。私のすぐ後ろの席では、浮月さんが気だるげに窓を閉じ、頬杖をついて興味なさげに車窓に目をやっていた。 やがて、天井に取り付けてあるモニターに、今流行りの男性アーティストの曲名が映し出された。 「吐き出したvape(ヴぇイプ)smoke(スモーク)は――♪」 トップバッターは一番後ろの席の田中君で、唄うのはそこそこヒットしたバラードだ。曲が進むにつれて観客から手拍子がついて来て、蒸し暑かった車内にも徐々にひんやりとした冷房の風が行き渡り、切なくしんみりとした曲の世界観を演出する。 「うわぁ、いかにもチャラーノらしい選曲、うざっ!」 私の一つ前の席に座っている千佳ちゃんからの反応はよろしくなかった。あの事件から、まだ仲直り出来ていないらしい。 田中君は無事に一曲唄い上げ、贈られた拍手に「サンキュー!」とアーティストぶった返事をして締めくくった。彼が唄っている間、千佳ちゃんはずっと小声で辛口の採点をしていたけれど、まあ一人目なんだからこれくらいの盛り上がりで合格なんじゃないかな。
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