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「次唄う人――!」 「はいはいはーい、私行く――!!」 今度は千佳ちゃんが名乗りを上げた。 後ろから回ってきたマイクとリモコンを受け取り、手際良く楽曲を検索する。そして、リモコンを持ったちっちゃな腕を前方へと懸命に伸ばして送信したナンバーは、 「波の()封じ込めてた、巻き貝の螺旋なぞり――♪」 爽やかなイントロで始まる、人気アイドルグループの夏ソングだった。 この曲は去年リリースされたヒットソングで、彼女のお気に入りだ。去年の今頃、今よりももっと元気だった彼女は、暇さえあればこのメロディーを口ずさんでいて、私は耳にタコが出来るくらい聴かされたのを思い出す。 しつこく唄ってきただけあって、音程もバッチリだし手振りも完コピで持ち歌のようだ。 「『眠い目こするバスの窓、夕べ眠れた訳が無いんだ♪』 はい詩乃ちゃん」 「えっ!? 『ケ、ケンカなんてしなければ、タイミングの魔物♪』」 彼女から突然マイクを向けられ、私は音を外さないよう慎重に唄ってやり過ごした。もう、いきなり振って来るのは心臓に悪いからやめて欲しい。 この、マイクのキラーパスで周りの子達を巻き込むスタイルは彼女の得意技で、ノリのいい子を起点に場を盛り上げていく戦法だ。一度火が付くと効果は絶大で、曲を知っている子は次々とコーラスに加わり、アイドル通の男子からは「オイ!オイ!」とコンサートの現場さながらのコールが沸き起こり、不思議な一体感が作られた。 私の隣に座っていたレイネは、曲を知らないので一緒に唄う事は出来ない。でも、みんなに合わせて手拍子を打ち、雰囲気を楽しんでいた。
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