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彼女から初めてその話を聞いた時は驚いた。 しかも、これはカミナリ様独自の酔い止め法では無く、人間界にも伝わっているそうだ。すぐには信じられなかったのでインターネットで調べてみた所、本当に存在している事がわかった。 これは、いわゆる『おばあちゃんの知恵袋』の一種で、梅干しの種を取り皮と果肉だけになった物をばんそうこう等でおヘソに貼り付けるだけの、とても簡単な方法だ。梅干しの貼り付け方は紹介されているページによって若干異なるが、彼女は梅干しの上にガーゼをあて、紙テープを貼って固定している。 肝心の効果の程はというと、人間界ではあまり信用が無い。科学的根拠は無く、「良く効く」という人もいれば「全く効果が無い」という人もいて、どちらかといえば迷信やおまじないとして扱われている事が多い。 それを彼女に伝えたら、「他の物は知らぬが、この梅干しは効くのだ」と自信たっぷりに答えた。彼女が使っているのは、この間の連休の時に駅前の漬物屋さんで買った高級な梅干しだ。あんないい物を、食べるのではなくておヘソに貼り付けるなんて、もったいないおばけが出てきそうだ。 彼女が初めてそれを使う所を見たのは、連休中に電車で移動した時だ。確かにその時は酔っていなかったが、人間の場合電車で酔う人は少ないので、カミナリ様だって梅干しが無くても酔わなかったのではないかと、まだ効果を疑っていた。それどころか、テープや梅干しで彼女のすべすべの肌がかぶれないか心配だった。 「ならばそなたも付けて体感すれば良い」と、彼女がすすめてくれたけれど、あいにく私は車酔いしない頑丈な体質で、付けても効果を実感出来そうに無いから遠慮した。それでなくとも、にちゃにちゃした梅の果肉をおなかに付けるのは気持ちが悪そうだし、もしも千佳ちゃん達にバレたら恥ずかしいから嫌だ。
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