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「そうだ、予備の梅干しがあるから、先生にも貼って進ぜようか?」 「ダメ、それは止めた方がいいよ!」 「何故だ?」 彼女からとんでもない提案が飛び出した。「何故だ?」って、目立つし恥ずかしいからに決まっているのに……。私には、先生の所まで行って「この梅干しは乗り物酔いに効くので、是非おヘソに貼ってみて下さい!」なんて言う勇気は無かった。 「これは人間界にも流布している民間療法だから、伝えた所で私が雷だと露見する事もあるまい」 「いいんだよ、ほっておいて! 二日酔いのせいだし、若いからすぐに良くなるよ」 たぶん、梅干し一つで正体がばれる可能性は低いとは思うが、なるべく普通の高校生らしくふるまうに越したことはないと思ったから、彼女の申し出を強く断った。 「そうか。ならば仕方ないが……、そなたも意外と薄情な所があるな」 「そうじゃなくて……」 あたかも、私が冷たい人間扱いされてしまったのはショックだった。もし、私が止めなかったら、彼女はためらう事無く、自ら先生のおなかに梅干しを貼ってしまったかもしれない。 「おお、詩乃。斯様な所で(いたずら)に時を浪費している場合では無いぞ。早く売店に向かわないと集合時刻に間に合わなくなってしまうではないか!」 「それ、私のせいなのかな……」 腕時計を覗いて慌て気味の彼女に急かされ、私達は売店の入っている建物に駆け足で向かった。
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