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とある業界関係者向けのマネージメント事務所。
そこで依頼者のスケジュール管理、略してスケ管をするのが私の仕事だ。
この事務所に転職してはや10年。
35才独身。そう、すっかりお局様だ。
まあ、今では多少大きくなった事務所だが、気心の知れたメンバーが多く、のびのび仕事をさせて貰っている。
お堅いスーツに眼鏡、引っ詰め髪。これが今の私の戦闘服だ。
私の仕事はスケ管だけで、ほぼ電話とメールで事は足り、定時で帰れるのがありがたい。
もうそろそろ6時。
仕事の切りもいいし、帰ろうかとデスクを片付け始めると、遠くの社長室から私を呼ぶ声がした。
榎木 淳一 今年で40才。人当たりは良くいつも笑顔を絶やさない。
童顔だからか、ちょっと抜けているからか、頼りなく見えてしまう事がある。よくまぁこれで社長やってるなと思うけれど、社長の姿を見ていると、『自分達が頑張らないと!』と社員は思うらしく、精鋭揃いだ。それで何とかこの事務所は保っている…ような気がする。
「ちょっとごめん!」と手招きする社長に、ちょっと嫌な予感がしつつ仕方なく向かう。
「なんでしょう?」
「紹介したいやつがいるから入って」
そう言って社長室…と言うのは名ばかりの個室に入る。
目の前には大きな人影。
身長185センチ、年齢39才、海外で活躍中の有名カメラマンが、フワフワの茶色の髪を揺らし端正な顔で笑顔を見せて、こちらに手を差し出していた。
「はじめまして、なが…」
相手が自己紹介するのを遮るように、こちらが口を開く。
「長門 司さん…ですよね?はじめまして。長森瑤子と申します」
差し出された手に軽く触れるだけの握手をして、私は速攻手を引っ込めた。
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