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「なんだ、知ってたの?」 促され座ったソファの隣で笑う社長を睨みつけるように視線を送ると、「当たり前です。この業界に何年いると思ってるんですか?」とため息をついた。 うちの事務所は主にカメラマン向けのマネージメントやスケジュール管理をしている。そんな業界に10年もいて、彼の事を知らないなんて人がいたら転職をお勧めしたい位だ。 「じゃあ、これは知らないだろ。僕と司、大学の同級生って」 「あぁ、そうなんですか」 私にとってはどうでもいい情報なので、サラッと受け流す。 「もうちょっと驚いても良くない?」 「いえ、特に。で、ご用件はなんでしょう」 「連れないねぇ…。まあ長森さんらしいっちゃらしいか。司がまた日本に拠点を戻すんだけど、スケ管やってくれないかなぁって…」 私のブリザード並みの冷たい態度を気に留める事もなく、社長はいつもの子犬のような顔でそう言った。 もっと面倒な事を要求されるかもと身構えていたから拍子抜けしつつ、 「なんだ、それでしたら構いませんが」と私は答える。 「え、いいの?結構面倒くさいよ?」 頼んでおきながら私の返事にびっくりした表情で社長はそう言った。 「ちょうど新人に回そうと思っていた案件もあるので」 「良かった〜。長森さんが適任だと思ってたんだけど仕事量が心配でさ。助かるわ。また詳細は追って伝えるから」 「承知しました。では私はこれで失礼します。長門さん、今後ともよろしくお願いします」 にっこりと営業用の笑顔を長門さんに向けると、仰々しくお辞儀をしてそそくさと部屋を後にする。 仕事は仕事、プライベートはプライベート。もう定時だ。私はさっさと会社を後にした。
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