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これくらいで引き下がる位なら最初っから声かけるなっつーの!と心の中で悪態をつきながらウィスキーを煽る。 あ〜…今日は無理かなぁ。 もう一杯だけ飲んで帰ろう、とバーテンダーに見せる様にグラスを掲げると、そのグラスを横から拐われた。 「一人?」 いつの間にか横に人が立っていたのに気づかなかった。 その男はバーテンダーに「同じものちょうだい。俺にも」と声をかけ、横に座る。 その聞き覚えのある声に、私は顔を上げられないでいた。 「ねぇ、なんで何も言わないの?」 間違いであって欲しいと思いながらも、顔を見せないよう俯いたままの私の髪に触れ耳にかける。 「まさかこんなところで飲んでるなんてね。長森さん?」 楽しげにそう言って私の顎を持ち上げ、自分の方に顔を向かせた。 「よく分りましたね。長門さん」 ここまで来たら仕方ないと開き直って、私はゆっくりと腕を払う。 「職業柄人の顔はよく見てるからね。まあ、よく化けたなとは思うけど」 長門さんは笑顔でそう口にする。 「化けたって失礼ですね」 「そーお?それにしても…こんなところで男漁りとはやるねぇ」 私がウィスキーを一口含んだところでそんな事を言われ、危うくむせそうになった。 「してません。そんな事」 「さっき一人あしらわれてたよね。お眼鏡には叶わなかった?」 淡々と言う私を意に介さず、カウンターに頬杖をついて体をこちらに向けたまま、長門さんはこちらを見て意地悪く笑っている。 「あーあ…淳一に言おうかなぁ。社員がバーで夜な夜な男漁ってるって」 「社長は関係ありません。それに夜な夜なでもありません」 「ふーん。じゃあ男漁ってるのは否定しないんだ」 「それは……。あなたが悪いんですよ!私にストレス与えるから!」 さっきまで冷静に会話していたつもりが、売り言葉に買い言葉でつい言葉を荒げてしまう。 そんな私の様子すら楽しんでいるような表情を見せて、「俺のせい?悪い悪い」と飄々と長門さんは言って退けた。 全く誠意と言うものが感じられない謝罪に、イライラゲージはどんどん溜まって行き、グラスを持つ手も心なしか震えた。
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