飛ぶ頭部

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 モヤモヤとしながら家を出た。昨日バケモノが飛んでいた道路で空を見上げる。マンションの陰から顔はひょっこり出て来た。また大きくなっている気がする。普通に生きてる人間の顔の5倍くらいはありそうだ。俺はフライングフェイスと呼ばれているバケモノに向かって「お前は電車で会うおじさんだろう」と叫んだ。顔はニヤニヤ笑ってからヒュルヒュルと空を右や左に飛んだ。とぼける気なのか。俺はもう一度大きな声で「おちょくってるんじゃねえぞ、昨日テレビでお前を見たんだ」と言った。その時グレーの車がハンドル操作を誤ったのかマンションの1階の店舗へ突っ込んでいった。大事故だ!運転席がぺしゃんこになっているように見える。俺は慌てて事故現場に行こうとした。だがバケモノが「行くんじゃない」と大声で空から叫ぶ。  俺は足を止めて事故現場を見ながら眉を寄せた。チラチラと火があがって炎上を始めた。続いてドーンと爆発したかと思うと何処かに引火したのか店舗にあったキッチンも爆発した。行っていれば巻き込まれていただろう。顔が助けてくれたのか。フライングフェイスいい奴じゃん。そんなことを考えていたら横に中学の時に好きだった由奈ちゃんが来ていた。 「あれ、久しぶりじゃない?ていうか、凄い事故だねー」  由奈ちゃんは両手を口にあてて驚いた顔で言う。俺は、その可愛い顔に釘付けになった。  その後、救急車が来たり消防車が来たり大騒ぎになる。顔のバケモノはいつの間にかいなくなっていた。近所の人がたくさん集まって来て「お兄ちゃん、巻き込まれなくて良かったね」と口々に言った。
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