修行I

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修行I

 俺は肩を叩かれたので、後ろを振り向く。  振り向いててみると、俺の容姿によく似ている三十代くらいの男性が立っていた。  未来の俺なのか……いや……そんなはずはない……  この人は一体誰なんだ……  俺は男性に恐る恐る質問する。 「……誰ですか?」 「私は市ヶ谷新汰(いちがやあらた)と申すものだ」  俺と同じ苗字……たまたまだよな……それとも……   「苗字が一緒ですね……」  俺は探る様に質問する。 「……そうなのか?」 「はい……俺は市ヶ谷湊です」 「湊か……聞いた事がある名前だな……」 「どういう事ですか……?」  今日が初対面だったはずなのになんで俺の名前を聞いた事があるんだ……やっぱり…… 「そうだ思い出した! 二代目の白夜の龍剣士となる者の名前だ!」  俺はずっこけそうになった。  予想していたことよりも遥か上の回答が返ってきたからだ。  やっぱりそうだよな……そんなはずはないよな……  俺は自分を無理やり納得させ、気持ちを整理する。  新汰は俺のことを二代目と言っていた……ということは新汰が古の日月厄災の話に出てきた白夜の龍剣士だという事が分かる。  龍化したのではなかったのか……それに百年も経っているのに生きていたのか…… 「新汰さんの肉体は今、存在するのですか?」 「いや……肉体は龍化したときに消滅した……今ここにいるのは白夜の中に唯一、残っていた記憶から作り出されたものだ。言うなれば魂みたいなものだ」 「なるほど……」  こんな非現実な事が起きるのは異世界ならではかな……俺は少し爽快な心待ちになっていた。 「新汰さん! このタイミングで姿を現したのは何でですか?」 「それはもちろん、湊を鍛えるためだ!」 「どうして……俺を……?」 「白夜に湊を鍛えるように頼まれたからな」    確かに今の俺では魔神どころか、普通の兵士にすら勝てない気がする……  白夜の力の使い方も全く分からないし、このままでは宝の持ち腐れになってしまうだろう。  こことは別の世界で異世界に行きたいと願ってしまうほど追い込まれていたので、同じ道を辿らないためにも強くなりたいとも思っていた。 「お願いします!!」  俺は新汰に鍛えてもらうことを快く受けた。 「よし! 決まりだな! 私の自己流を伝授するから、やりにくいと思ったら自分なりにアレンジするといい」 「分かりました……」  自己流で古の日月厄災の時みたいな強さになれるなんて、この人は一体何者なんだ……  この神殿の中に転送されて、三時間くらい経ったとは思うが、景色は全く変わらず、薄暗い中で修行が始まった。  空腹も全く感じていないみたいだ。不思議だな……  自己流……いや……新汰流と名付けておこう……新汰流の構えは三つ存在するらしい。  一つ目は上段構えで刃先を上に向け剣道の様に構える。  上段構えの利点は重い攻撃、強攻撃ができるというところだ。  その代わりに動きが鈍くなると言う欠点も存在する。  二つ目は中段構えで刃先を横に倒し腰の辺りで構える。  中段構えの利点は攻撃と守備をバランス良く使い分ける事ができるところだ。  カウンターが得意な構えでもあるらしい。  それと言った欠点はないが、上段構えのように重い攻撃、強攻撃ができなかったり、この後で説明する下段構えの時みたいなスピードが出せないことくらいだ。  三つ目は下段構えで刃先を地面に向け、腰より下の位置で構える。  下段構えの利点は守備、回避をどの構えよりもしやすく、素早い攻撃ができるところだ。  欠点は攻撃が軽いところだ。小競り合いになると大抵、押し負けてしまう。  相手の隙をうまく着いて攻撃していく事が大切だ。  新汰流はこれらの構えを状況に応じて変更しながら戦っていくらしい。     「よし! 湊! 今から実戦を始める!」 「……はい……」  説明が終わって復習する暇もなく、いきなり実践を始めると言われたので、おろおろしてしまった。  俺は陽炎刀を中段で構える。 「中段構えか……! なら私もこの構えで行くことにする!」  市ヶ谷新汰は腕を体の真横に水平に出す。  数秒後、手に白色の剣が出現する。新汰は白色の剣を両手で持ち、中段構えをする。 「この剣は暁光日華(ぎょうこうにっか)と言う」  暁光日華も陽炎刀と同じで、白夜の力を抑えるために作られた武器みたいだ。  この世界に幾つ存在しているのだろうか……  今、考えても無駄か…… 「では始める!」  俺と新汰は武器を鞘にしまった状態で戦闘を開始した。  鞘にしまった状態で戦う理由はお互い怪我をしないためだ。  俺と新汰は5メートルくらいの距離で様子を伺う。  二人の間には息が詰まるほどの緊張感が漂っていた。  極度の集中状態のせいか、花の香りも全くしてこないし、風の音も全く耳に入ってこなかった。  静寂を破ったのは二人同時だった。  俺と新汰は間合いを一気に詰める。  先に攻撃をしてきたのは新汰だった。新汰は暁光日華を水平に振る。  俺は暁光日華を当たる寸前まで待って、後方に回避し構えを中段から下段に切り替えて陽炎刀で素早く斬り上げる。 「……やるな……だが甘い!」  新汰はいつの間にか構えを上段に変更しており、上から暁光日華を斬り下ろしてきた。  陽炎刀と暁光日華が激突する。 「……くぅ……重い……」  もちろん、下段構えでは上段構えの攻撃に勝つ事ができない。  じわじわと陽炎刀が押し戻されていく。  手には物を握れなくなるほどの痺れが走る。  すぐにでも陽炎刀を離してしまいたい……  このままだと肩に暁光日華が直撃してしまう。  何か策を考えなければ……  下段構えでは上段構えには勝てないから、押し返すのは無理だ……  ならどうする……  暁光日華が肩から一メートルくらいの位置に来たとき、策を思いついた。  そうだ……押し返す事が無理なら受け流せばいい……  俺は陽炎刀の刃先を水平の状態から斜め下に向ける。   「……なっ……!」  威力がある分、攻撃を受け流されたら重力に逆らえず、地面に向かって高速で暁光日華が落下していくだけだ。  そこで出来た隙を狙って新汰に攻撃を当てれば良い。 「隙あり!」  俺は上段構えに切り替えて陽炎刀を振り落とす。しかし新汰には当たらなかった。  新汰の復帰が予想以上に早く、防がれてしまったのだ。  新汰は頭上で暁光日華を水平にし、両手で支えながら、俺の陽炎刀を受け止めていた。 「……マジかよ……」  新汰は俺の陽炎刀を弾く、俺と新汰を比較すると新汰の方が体が出来上がっていて力が強いので簡単に弾かれてしまった。  弾かれたところで、できた大きな隙間を新汰は逃すはずもなく、俺の腹に新汰の暁光日華が直撃する。 「……うっ……!」  俺は三メートルほど吹っ飛ばされて地面に横になった。  この実戦のルールは一発、武器をクリンヒットさせた方が勝ちだったので、見事に完敗したことになる。 「……はぁ……はぁ……」  俺にはもう起き上がる気力は残っていなかった。  やっぱり初代は強いや…… 「最後の攻撃はなかなかだった!」 「ありがとうございます……防がれましたけど……」 「私の若い頃よりはセンスがあるようだな! 鍛錬を積めば成長の見込み有りだ! 少し休憩を取ったら次は白夜の力の使い方を教える!」  まだまだ修行は続くようなので、俺は体を休めることに集中をすることにした。                    
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