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召喚準備
少女は地面に魔法陣を描いていた。
「アリヤ王女殿下! もうすぐで召喚の準備ができそうですね!」
「まだ油断をしてはダメですよ! ルドラル!」
「分かっておりますとも!」
明るく声を掛けてきてくれたのは、アリヤが幼いころからずっと面倒を見てくれている執事のルドラルだった。
アリヤには小さい頃から魔法の才能が飛びぬけており、この世界でも三十人くらいしか使うことのできない空間魔法の使い手である。
空間魔法にも種類がある。瞬時に場所を移動できる空間魔法や物を収納できる空間魔法、他にも攻撃と防御力に優れた空間魔法も存在する。
アリヤが使える空間魔法は異世界から人を召喚できるという空間魔法だ。
空間魔法の中でもこの能力を持つものはまれで、世界に五人くらいしかいないと言われている。
今、ラクシュトリア王国は危機的状態にある。その為、アリヤは王様に異世界召喚を実行してはどうかと提案したのだ。
ラクシュトリア王国の王宮には古の日月厄災の際に神殿に封印された三つの強大な力が存在している。
朝の龍白夜の力と夜の龍極夜の力、四大精霊の力である。
これらの能力を使いこなせる者を召喚する事で危機的状態を脱出できるのではないかと考えたのだ。
アリヤの意見は承認され、この件に関しては王様に一任されている。
自分が提案したのだから責任を持ってやらなくては……
魔法陣は完成した。
「……ふぅ……やっと完成しました……」
アリヤは静かに息を吐きだし、ゆっくりと微笑む。
「さすがでございます! アリヤ王女殿下! 少し休まれてはどうですか?」
アリヤは無理をして笑みを作ったが、大きな魔法陣の作ることは予想以上に体力を使う。
アリヤの状態を見透かしているかのように、ルドラルは気にかけてくれている。
「では少しだけ休ませてもらいます」
アリヤはルドラルの言葉に甘えることにする。
アリヤはルドラルの膝を枕にして、目を閉じる。
幼い頃から活発的だったアリヤは王宮の外で眠ってしまう時があった。その時にルドラルの膝を使ってよく眠っていたことを覚えている。
アリヤの無茶振りにもよく付き合ってくれて、ルドラルの背中でもよく眠った。
そんなルドラスだからこそ、アリヤは安心して体を預けることができる。
「しっかりと休んでください……召喚にも体力を使いますから……」
ルドラスは上着を脱ぎ、アリヤに被せた。
***
「お前達はなんだ!」
「うわぁぁぁぁ!!」
地下空間の外が騒がしくなっていたので、アリヤは目を開ける。
ルドラルの顔が視界に入るが、どこか落ち着かない様子だ。
「……どうしたのですか? ルドラル……」
「……やっと起きられましたか……アリヤ王女殿下……」
ルドラルはアリヤを起こそうと試みていたようだ。
「襲撃を受けているようです……」
「どういう事ですか?」
「私にも分かりません……アリヤ王女殿下を狙っているのかもしれません……」
「どうして私を狙うのです……?」
「召喚を阻止するためでだと思われます」
当然のように異世界召喚を反対するものたちも現れる。
古の日月厄災みたいなことが再び起きてしまう可能性があるからだ。
その可能性があってもラクシュトリア王国を救うためにはこの方法を取るしかないのだ。
地下空間の扉はロックが掛かっているので簡単には入ってこれないはずだ。
外の騒ぎが治まった。静けさがアリヤたちを襲う。
「敵はいなくなったのでしょうか……」
「まだ分かりません……油断せぬように頼……」
「……はい」
アリヤはルドラルの背後に隠れるように立つ。
凄まじい音と共に扉が吹っ飛ばされる。爆破魔法を使ったのだろう。
この地下空間は地上とはかなり離れているので、大きな音がしても地上には届かないのだ。
この場所を知っているのはウクシュトリア王国の幹部クラスの伯爵階級以上の階級のものしか知らない。
幹部クラスの中にこの作戦に反対するものがいることになる。
入り口から十人くらいの暗殺者が姿を現し、アリヤとルドラルを囲む。
作戦を反対している貴族は自ら手を汚すことなく、速やかに始末することを目的としているみたいだ。
「アリヤ王女殿下! 私から絶対に離れないでください!」
ルドラルは険しい目つきに変わっていた。こんな顔を見たのは初めてだ。
「……分かりました」
アリヤはルドラルに近づいていく。二人の距離は五十センチほどになっていた。
顔は見えないが、暗殺者のリーダーらしき男が剣をアリヤの方に向ける。
アリヤとルドラルを囲んでいた暗殺者たちが一斉に襲いかかって来た。
ルドラルは自分の体を強化する強化魔法を発動して、暗殺者たちを迎撃していく。
数分後、暗殺者のリーダー以外の者たちは気絶していた。
ルドラルはやっぱり強い……
「残りはあなただけですね! まだやりますか!?」
リーダーらしき男は無言で、ルドラルの方に向かっていく。
「力尽くで止めろということですね! それなら容赦はしません!」
ルドラルの右手の拳と男の剣がぶつかる。男の剣はその状態で爆発を起こした。
男は剣に爆破魔法を付与したのだ。だがルドラルの強化された拳にはダメージが入っていない様子だ。
爆破魔法をもろともしないなんて、どれだけ強化魔法を極めたのだろうか……
アリヤはルドラルの戦いを見てそう思った。
実力は互角ではない、少しずつだがルドラルが男を押している。
ここままだと勝てないと男は思ったみたいで、アリヤを標的に変えて向かってくる。
「アリヤ王女殿下には指一本触れさせません!!」
ルドラルは男の腰にパンチを当てる。男からは鈍い音が聞こえてきた。
男の骨が折れた音だ。男は吹っ飛ばされ起き上がっては来なかった。
一人で十人もの暗殺者を始末するなんて、凄すぎる。
アリヤはルドラルの強さを見て、尊敬する気持ちが最高点に達した。
アリヤとルドラルは協力して暗殺者たちを縛り、召喚を開始するのだった。
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